第 010 章| ミン・レイヴンフェザー
隣塔の班長が屍を検める。人に似た歯形、消える6本指の足跡、剥がれゆく壁の文字。カエルの身に変化が及ぶ。
寒月 26 日、卯の刻の一刻前、第47監視塔。
カエル、目覚める。
左の脛が痒くない。包帯の下の傷も、痛まない。
フェン軍医は昨日「あと三日」と言った。負傷した夜から数えて、今日で四日目だ。フェンは日数をいつも甘めに言う、とカエルは知っている。だが今度は違う——自分で触れてみた、傷はフェンの言ったより速く治っている。
身を起こす。ゆっくり。左脚に体重をかけない。手を伸ばして枕元を探る——
——ゴルム班長が塔を発つ前に握らせた小さな紙。まだ枕の下の、もっと奥にある。開いていない。
ゴルムは昨日帰るはずだった。
ゴルムは帰らなかった。
「なぜゴルムは帰らない」。そう考えながら、カエルは起き上がり、上衣を着て、塔の中を出た。
外、第47監視塔の下に、一人立っている——ソレンではない。
その男は四十過ぎ。黙境のレイヴンフェザー家正規軍人の制服。左袖に三本の青い紋——レイヴンフェザー家正規軍人であり、辺塔の守備兵ではない。髭は整っている。左手は剣の柄に添え、右手は空のまま垂れている。左利きの者だけが、こう立つ。
「あなたは?」カエルが問う。
男が振り返り、彼を見た。
「ミン・レイヴンフェザー」と男が言う。「第46塔の現班長。ゴルム班長の兄弟子だ」
カエルは一瞬、固まった。「ミン班長?」
「お前がカエルだな」。ミンは彼を一瞥し、カエルの左の脛を見た。「フェン軍医が昨日、第46塔に伝令を送ってきた。お前の傷がもうじき治ると」
「はい」
「カエル、俺と一緒に塔へ上がれ」とミンが言う。「ソレン先輩と話す。お前は塔の頂上に残れ。下りるな」
「はい」
二人、塔を上がる。
ソレンは今朝、塔の頂にいた。長弓の弦——昨夜三本目に張り替えた——もはやフェン軍医が届けた銀糸の線だ。ソレンは引いていない。立って、壁を見ている。
「ソレン先輩」。ミンが礼をする——黙境式、半ば握った拳で軽く左胸に触れる。
「ミン・レイヴンフェザー」。ソレンは振り向かない。「あの二つの屍を見に来たか」
「はい」とミン。「フェン軍医が昨日、第46塔に書状をよこした。自分で確かめに来た」
「下だ」。ソレンが塔の下を指した。
ミン、塔を下りる。
カエルは塔の頂で、ソレンを見ている。
ソレン——このとき——
——ソレンの右肩が、昨日よりさらに落ちている。
「ソレン——」カエルが言う。
「カエル、座れ」とソレン。「ミンが屍を見て、見終わったら上がってくる。三人で話す」
カエル、座る。
塔の頂は静かだ。ソレンは壁を見る。カエルはソレンを見る。
一刻が過ぎ、ミンが塔を上がってきた。
「ソレン先輩」とミン。
「ミン、言え」。ソレンがついに振り向いた。
「二つの屍、大きく肉を食い取られていた」とミン。「噛んだ歯形、神々の猟犬のものではない。どんな大獣のものでもない。歯形の形は——」ミンが一秒、間を置いた——「人のようだ」
ソレンはすぐには反応しない。
一秒が過ぎ、ソレンが言った。「人のよう?」
「ええ」とミン。「だが、歯は人より大きく、間隔は人より広く、噛む力は人の持つものではない」
「何が、人型の歯を持ち、しかし人より大きい?」
ミンは答えない。
ソレンは壁を見る。
長いこと経って、ソレンが言った。「ミン、お前は覚えているか。俺の父が 27 年前、死ぬ前に残したあの記録を」
ミンは少し考え、それから言った。「あなたの父上が書いたのは——」
あるものが、壁の中から歩み出てくる。獣ではない。忘れられた人のようだ。
「そうだ」とソレン。「俺の父が 27 年前これを書いたとき、俺は十八だった。寝言だと思った」
「今は寝言だと思わない?」
「思わない」
ソレンが一秒、間を置く。
「ミン、第47塔は安全ではない」とソレン。「昨夜から分かっていた。今日お前が来て、それが確かになった」
「ソレン先輩——」
「俺は退かん」とソレン。「27 年守った。ここで死なずに、どこで死ぬ」
「カエルは?」ミンが問う。
ソレンがカエルを見る。
カエルの胸が、ひとつ波打った。
「カエルも退かん」とソレン。「カエルはここにいる。俺が見ている」
「ソレン——」
「言ったろう。俺が見ていると」とソレン。
ミンはそれ以上問わなかった。
一刻が過ぎ、ミンがソレンに言った。「ゴルム班長、昨日帰るはずが、帰らなかった」
「知っている」とソレン。
「俺は王都へ下る道で、聞き込む」とミン。「もし道の途中にいれば、連れ帰る」
「頼む」
ミンは礼をし、一歩退き、振り返り、塔を下りようとした。
下りる前、足を止め、振り返ってカエルを見た。
「カエル」
「はい」
「左の手のひらを、俺に見せろ」
カエルはなぜとは問わなかった。左手を開いた。
あの痕——
——昨夜、四画目まで伸び——
——今朝——五画目が増えた。
五画。
文字は、半ばまで書かれている。
ミンは五秒、見た。
「カエル、左手をしまえ」とミン。「他人に見せるな」
「なぜ?」
ミンは答えない。
一秒が過ぎ、ミンが言った。「他人に見せるな。覚えておけ」
カエルは左手を閉じた。
ミンは塔を下り、南の小道を行き、雪の中に消えた。
午の刻、フェン軍医が塔に上がってきた。
「カエル、包帯だ」
フェンが包帯を解き、傷口を見て、それから——
——手を止めた。
「カエル——」とフェン。
「ええ」
「お前の脚は——」
「もうじき治る」
「もうじき、ではない」とフェン。「お前の傷は——もう、ない」
カエルは俯いて自分の左の脛を見た。
軍医が昨日縫った七針の糸は、まだある。糸は、フェンが結んだ結びのままだ。糸の下、皮膚は、すでに塞がっていた。カエルはその皮膚を指で押した、強く押した——下に痛みはなく、傷跡もなく、赤みすら引いてしまっていた。
「ありえない」とフェン。「縫い目の下が、四日で治るはずがない」
カエルは答えない。
フェン——この四十五歳、少なくとも数百の傷を見てきた軍医——
——フェンの手が、わずかに震えていた。
「カエル、包帯はとりあえず換えない」とフェン。「第46塔で別の薬を取ってきて、診る」
「はい」
フェン、塔を下りる。
カエルは塔の中に座り、左の手のひらを開いた。
五画はそこにある。傷は消えた。
二つのことを、並べて見た。傷は昨夜、神々の猟犬に噛まれたもの。五画目は今朝、増えたもの。その前の夜、手のひらは四画目まで伸び、左脚にはその夜、七針が縫われた。一画増えるたびに、脚はひと区切り治った。
一刻、座って、この勘定が合わないことを考えた。
脚の肉はひとりでに戻ったりしない。何かが、彼の代わりに肉を育てた。その何かが求めるものが、手のひらに、一画ずつ刻まれていく。
その文字を、彼は知らない。五画目まで書かれても、まだ知らない。
だが、彼は思いはじめた——この脚は、ただで治ったのではない、と。
申の刻、カエルは塔の中を出て、塔の下の壁の根元へ歩いた。
ソレンは塔の頂にいない——ソレンは昼すぎに塔を下り、ミンが残した手がかりを探しに行った。
塔の下、雪の上に、足跡があった。
カエルはしゃがみ、足跡を見た。
大きくない。自分の足とほぼ同じ長さだ。はじめは、どこかの守備兵が踏んだものかと思った。
だが、前足のあの趾の窪みの列を、彼は一度数え、もう一度数えた。六つ。
カエルは指で足跡の縁に触れた。
足跡は新しい。縁はまだ風で乾いていない。
足跡は壁の根元から、南へ、第47塔の真後ろまで歩き、それから——
——消えた。
足跡は塔の中に踏み込んでもおらず、塔を回り込んでもいない。歩いて、歩いて、突然そこで足がなくなる。
カエルは顔を上げ、黙の壁を見た。
ソレンが指したあの壁面——三画目の亀裂のあの段。
昨日カエルが見たとき、その文字の下半分はもう消えていた。いま顔を上げると、上半分も落ちはじめている。玄武岩の屑が、ひとひら、またひとひら、壁の面を伝って落ち、壁の根元の雪に落ちていく。
三画目は、すっかり剥げ落ちた。その隣の二画目は、画の尾にも亀裂が一筋、走っていた。
カエルは立って、壁を、長いこと見た。
彼の左の手のひらが、熱を持った。
長く握っていて蒸れた熱ではない。手のひらの骨の奥から突き上げてくる、その五画の文字へ突き上げ、文字の縁が跳ねるように灼ける。カエルは手を雪の上に開いた。雪が、小さな輪になって溶けた。
カエルは左手を閉じ、塔の中へ歩いて戻った。
外では、四度目の夜が、来ようとしていた。
【第 010 章 完 ・ 第47監視塔 ・ 寒月 26 日 卯の刻 → 申の刻】
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