巻一 · 黒塔の継承人

第 007 章| 宿舎 247

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墨の釉は今朝書かれたと告げ、筆致は卓のない場所で立って書いたと告げる。伙房の男はそれを見て、何もしない。子時に鐘が一つ鳴り、線が揺れ──丑時、紙の位置がずれていた。

赤環暦 1218 年、冬至月、第二十一日、午時の終わり。

戸を閉めてしまうと、宿舎 247 にはロエン一人だけが残った。

彼は寝台の縁に坐り、外套を脱いで畳み、膝に置いた。それから畳んだ外套を寝台の枕元に置いた。卓の上ではない──卓にはあの紙がまだあり、外套を紙の上に載せたくなかった。十一年の辺軍の訓練のうちに、彼が自分で掴んだ規が一つある。慣れない物は、重ねるな。重ねれば「お前が動かした」に変わる。

学院の内の静けさは、北境の辺軍の流刑地とは違った。

辺軍の夜には風があり、遠くに狼がいた。交代の足が雪を踏む音、油灯が風に揺れて立てる低い音、どれも辺軍の常態のうちだ。ここにも風はあるが、石畳を渡る音は半分を塀に止められ、残り半分は回廊の屋根に吸われる。狼はもちろんいない。遠くに馬蹄もない──学院の馬車の輪は柔らかい素材を巻いてあり、音が極めて薄い。

ロエンはしばらく坐り、ひと巡り聞き終えて、この場所の「静けさ」が設計されたものだと見て取った。

灰冠城の「満ちている」ほうは、学院の塀が外に留めている。学院の「静けさ」のほうは、誰かが手をかけて作ったものだ。

どちらの状態も、自然ではない。

胸の内ポケットの銅ボタン──あの見えない線は、城の中央の方角へ引きつづけている。宿舎の中でも馬車の中と同じだけ安定していて、強くも弱くもなっていない。

ロエンは今日のあの結論を、胸のうちでもう一度なぞった。自分が向かう場所と、自分が引かれている場所は、同じではない。

学院は東。線は西北。

二つの向きのあいだに、固定した角が一つある。その角はこの宿舎 247 でも、馬車の上のときと同じだった。つまり──彼を引いているあれは、彼について動いてはいない。ずっと城の中央のあの位置にあって、動かない。彼が引かれるのは、彼のほうがそれに近づいているからだ。だが決して直に近づくことはない──学院の位置がそれを決めている。

引いているそれは、赤環王冠の塔の下にある。

ロエンはこの推論を、初めて胸のうちではっきり言葉にした。


未時。

午後の光が小窓から斜めに入り、卓の端に落ちていた。

ロエンは卓の前に坐らなかった。寝台の縁から卓の反対側へ回り、光を頼りにあの紙を見た。

紙は午後の光の下で、朝より色が一段濃い。繊維はロエンにも分かる──学院の紙ではない。学院の紙は縁に極めて細い銀の紋があり、引導ホールから飯を運ぶ木の盆まで、どれにも見える。この紙にはそれがない。

紙の上の青銅の墨には、極めて薄い釉が乗っていた。青銅の墨は乾いて初めて釉が立ち、一日置いてようやく釉が厚くなる。この紙の釉は薄く、一日に満たない──朝ごろ書かれ、午前に届けられたのだろう。

紙は新しく置かれたものだ。置いた者は、ロエンが午時の終わりに宿舎 247 へ着くと知っていた──すなわち、置いた者は学院がこの部屋をどう割り当てるかを知っていた。

引導ホールのあの女の学者は、冊子を最後の頁までめくって第八支系を見つけ、その場で 247 と決めた。あの決定はその場のもので、ロエンは居合わせて見ていた。紙を置いた者は、彼女がどう割り当てるかを先読みしたか、彼女が決めたあとで、ロエンが着く前に紙を差し入れたかのどちらかだ。

どちらもよくない。

図案は朝のうちに覚えた──円中一横。同じ手が描いている。円を描き終えて一度止まり、それからあの横線を足している。「247」の三文字は筆致がやや硬く、起筆は右上へ向く。卓に伏せて書いた字ではない。立って書いた字だ。

この紙を書いた場所には、卓がない。


酉時。

戸の外で誰かが戸を叩いた。

ロエンは開けなかった。まず聞いた。

足音は一人、学院の学者のあの両手を身の前に集める歩き方だ。相手は戸の外で止まり、二度叩いた──音は大きくなく、間隔は均していた。

「飯だ」相手が言った。

男の声だった。朝のあの門吏でもなく、引導ホールの女の学者でもない──新しい人間だ。

ロエンは戸を開けた。

戸の外に四十を過ぎた学者衣の男が立っていた。灰衣、襟に家紋はなく、腰の脇に葛と同じ型の銀の小札を掛けている──だが札に「引導員」とは刻まれていない。「学院·伙房」の三文字だ。手には木の盆を持っていた。

ロエンは身を退けた。男は部屋に入り、木の盆を卓に置いた──ちょうどあの紙を避けた位置で、触れてはいなかった。

その避け方は自然だった。だが避けるには、まず紙がどこにあるかを知っていなければならない。

男は盆を置き終えると、視線が卓の上に一呼吸ほど留まった──紙の図案と「247」を見て取るのにちょうど足りる長さだ。それから視線を戻し、袖から掌ほどの薄い木の札を取り出して、盆の脇に置いた。

「奉冊礼でこれを出す」彼は言った。「新入生の入院木札だ、お前の宿舎の番号を烙いてある。失くすな──一枚補うのに文書を三日回す」

ロエンはその木札を見た。素面で、一角に「247」だけが烙かれている。字口は焼き鏝で入れたもので、卓の上のあの紙に手で書かれた「247」とは同じ手ではない。

「明日迎えに来るのは、誰だ?」彼は訊いた。

男は戸を引いた。「引導員だ。同じ者」彼は振り返らずに言った。「巳時、南会堂前で奉冊礼だ、遅れるな。遅れれば、執礼官が衆目の前で空号を唱える──お前のような支系には、いいことではない」

戸が閉まった。


ロエンは卓の脇に立ち、木の盆と紙を見ていた。

盆の中は粥が一碗、干した塩魚が半身、湯が一杯──昨夜、南郊駅館でホー老が運んできた取り合わせと同じだ。召還されて戻る者が何を食うかは、王朝の編制の中で決まりきっている。

あの伙房の男は紙を一目見て、訊かず、報せず、見なかったふりもしなかった。学院の内の宿舎の卓に規範にない紙が一枚置かれ、学院の当直の者がそれを見て、処理しない。

見て処理しない──学院は知っていて、黙認している。

ロエンは寝台の縁に坐り、粥を半分食べ、残りの半分を卓に置いた。


戌時。

油灯を点した。

ロエンは礼節指引手冊を鞍の包みから取り出し、寝台脇の低い腰掛けに広げた。

第三巻「黒塔学院新入生入学儀典」。

第三巻は第七巻よりずっと厚い。前半は「入学前の手続き」を書いている──召還令を受けた日から数えて十二日以内に届け出ること、届け出の当日は引導員が付き添って院に入ること、引導員の引き継ぎののち新入生は宿舎で一昼夜を守ること、翌日の巳時に「南会堂前奉冊礼」に出ること。

「奉冊礼」の三文字を、ロエンは見たことがなかった。第三巻の後半に詳しい記述がある──新入生は南会堂前の広場に列を作り、学院の執礼官が名を唱え、新入生は前へ出て「家籍冊」を一冊受け取る。冊にはその新入生の家と支系、学院での身分、それに学院内の配額が記される。

ロエンは第八支系の節を開いた──第七巻と同じく白紙だった。

第三巻には半頁の「特殊支系についての説明」がある──書かれているのは、「特殊支系の新入生が現行の制度に含まれない事態に遭った場合、引導員が臨機に処置し、学院は引導員の判断を尊重する」。

「臨機に処置」の四文字を、ロエンは三度読んだ。

引導ホールでの葛の態度に、いま一つ説明が加わった──彼女個人の中立というだけではない。学院の制度が、ロエンのような「含まれない事態」について、彼女自身に処し方を決めることを許している。

「247」というこの宿舎の番号も、葛の「臨機の処置」かもしれない。

ロエンは手冊を閉じ、腰掛けに置いた。

胸の銅ボタンは動きつづけていた。向きは変わらない。


亥時。

油灯を吹き消した。

ロエンは横になった。すぐには目を閉じなかった──この部屋の暗さに慣れているところだった。宿舎 247 の暗さは、南郊駅館のあの部屋とは違う。南郊駅館は窓が灰冠城の方角へ開いていて、夜になると極めて薄い市の音が透ってきた。宿舎 247 の窓は学院の外塀に向いていて、外塀が外の音の大半を止めている。部屋の中の暗さは密度の高い暗さで、綿でひと通り詰められたようだった。

子時の前に、彼は半時辰ほど眠った。


子時。

目が覚めた。

音に起こされたのではない。ある種の感覚だ。

胸の内ポケットの銅ボタン──あの見えない線が、いま一度、揺れた。

常の引きではない。常の引きは安定していて、一方向で、拍がない。今度は揺れだ──線が張っている先のものが、向こう端で軽く一度揺らぎ、線もそれにつれて揺れ、そしてまた元の位置に戻ったような。

揺れたその同じ瞬間に、城の中央の方角から鐘が一つ来た。ひどく低く、ひどく短く、一声鳴って止んだ。時を報せる鐘ではない──時を報せる鐘は南郊駅館で聞いた、時辰の数だけ打つ。これは一声きりだった。

ロエンは息を止めた。線は元の向きに戻っている。城の中央、王冠の塔のあの位置だ。さっきの一揺れは本物で、城の中央のあの一声の鐘は、それと同じ瞬間だった。

彼は起き上がり、小窓の前へ行った。

学院の外塀の外は灰冠城東区の屋根だ──この高さからは灰瓦の稜線がいくらか見えるだけだ。さらに遠くは城北の空で、雲は厚く、月はない。城の中央のほうに光はなく、二度目の鐘もない。

ロエンはしばらく聞いた。学院の中は相変わらず設計された静けさで、外塀の外の灰冠城は子時にはもう昼の音を最も低いところまで押し下げている。他の音はなかった。

彼はしばらく立って、寝台へ戻って横になった。

卓の上のあの紙は、油灯が消えたあとは部屋じゅうと同じに黒い。だがロエンはそれがそこにあることを知っていた。


丑時。

ロエンはもう眠らなかった。

あの一声の鐘のあと、彼は起きて、暗がりを手探りで卓の脇へ行き、あの紙がまだ元の位置にあるかを確かめようとした。

紙はあった。だが位置が変わっていた。

午後に彼が卓を離れたとき、紙の下の縁は卓面の木目の継ぎ目を一本押さえていた。いまは紙がずれて、その継ぎ目が一筋覗いている。誰かがこの紙を動かした。しかもロエンが眠っていたあの半時辰、戸の音も、足音も聞いていない。

彼は指先を紙に当て、灯は点けなかった。紙は冷たく、卓面と同じ温度だった──動かした者はとうに去っている。

紙を置いた者はいまだに姿を見せず、署名もせず、一字も残さない。紙を一枚置いて、何も言わず、しかも夜陰に乗じて入ってきて一度動かす。ロエンにはその意味が分かった。相手は彼が自分から歩いて行くのを待っている。どこへ歩いて行くのかは、いまは分からない。今日着いたばかりで、何も慣れておらず、軽々に動けば事が起きる。明日の巳時、南会堂前の奉冊礼は学院の系統の事だ。まずそれを歩き通さなければならない。

ロエンは紙を元の位置に戻さなかった。寝台の縁まで退き、背を壁につけて坐り、戸のほうを向いて、夜が明けるのを待った。

卓の上のあの紙は、そのまま置かれていた。


【第 007 章 完 · 黒塔学院宿舎 247】

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