枝寂村
黙境の奥にある小さな村で、黙壁から320キロ離れている。16年前に黙壁が一度破られ、壁の外から来たものに踏みつぶされた。村人のうち生き残ったのは、守壁軍が瓦礫から掘り出した、襁褓の中の赤子ただ一人だった。
最終更新:2026.06.20
枝寂村はかつて黙境の奥にある小さな村で、黙壁から320キロ離れていた——本来なら安全なほどに遠かった。
16年前、黙壁が一度破られた。壁の外から来たものが裂け目を抜け、ひたすら南へと向かい、枝寂村を踏みつぶした。村人は一夜のうちに消え失せ、遺体さえいくつも残らなかった。守壁軍が駆けつけたとき、瓦礫の中から掘り出された生き残りはただ一人——襁褓の中の赤子だった。
その子は守壁軍に育てられ、守壁軍に編入された。彼は村のどの家の姓も名乗らない。なぜなら、その姓がもともと何だったのかを、もう誰も教えられないからだ。枝寂村は今や地図の上の地名一つと、自分がどこから来たのかを決して口にしない一人の兵だけを残している。
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