壁から剥落する名

黙壁に刻まれた王の名が、一画一画と剥落し始めた。音のある剥落は遅く、追える。音のない剥落は速く、追えない。

最終更新:2026.06.20

黙壁の文字は本来、永遠のはずだった。だが近ごろ、壁を守る者たちはそれが落ちていくのに気づいた——風化ではなく、剥落だ。一画また一画と石から消えていく。まるで何かに裏側から抜き取られるように。ある文字の下半分が一夜のうちに音もなく抜き取られ、翌日になってようやく、そこが空いているのに誰かが気づく。

古い守壁人がこんな言葉を伝えている——音のある剥落は遅く、追える。音のない剥落は速く、追えない。ときに一画の文字の下半分が一夜のうちに音もなく抜き取られ、翌日になってようやく、そこが空いているのに誰かが気づくのだ。

なぜ文字が落ちるのか誰も知らず、誰もこのことを南方へ送る戦報に書き込もうとはしない。守壁軍はただ黙々と、空いた一枚一枚の石面の前で、もう少し長く立っているだけだ。壁はまだある。だが壁の上の名は、この世界を去りつつある。

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