脱皮した抜け殻
棺槨を開けても屍体の無い帝陵がある。あるのは棺の底にきちんと敷かれた一枚の完全な人の皮——後頭部の真ん中から下へ裂けている。
棺槨を開けても屍体の無い帝陵がある。棺の底に一層のものが平らに敷かれているだけだ。脱いできちんと畳んで置かれた衣服のように——それは一枚の完全な人の皮だ。
皮は薄く、掲げれば光を透す。指の腹で擦れば長く置いた蟬の抜け殻の手ざわりがあり、押せばごく細かい脆い音がする。裂け目は後頭部の真ん中から起こり、首の中軸線に沿って下りていく。縁に刃の痕は無く、引き裂いたときのぎざぎざも見当たらない。何かが内側からこの皮を押し開き、一寸また一寸と退いていったかのようだ。
同じ裂け目が、まだ歩き回るものの上にたまに現れる。背後から見ると、それは髪の毛のように極めて細い暗赤色の痕で、髪の生え際に隠れていて、気をつけなければ髪の分け目と思ってしまう。
業界に統一した呼び名は無い。関中の職人は棺の底のあの皮を褪衣と呼び、死者が去り際に脱いだ最後の一枚だという。両湖のあたりでは空槨と呼び、重きは槨に人がいないことに置かれる。この手のものはそもそも副葬品には数えず、主人が自分で遺したものだと言い張る古老もいる。三つの言い分は互いに譲らないが、共通するのは一条だけだ——出くわしたら退け、触るな。
関中のあの無名の帝陵のいちばん底の層には、もっと完全な一体がある。それは龍の椅子に坐り、腐った玄色の龍袍をまとい、坐姿は正しく、顎は傲慢と言っていいほどの角度まで上がっている。顔に瞼は無く、眼窩のあの一対の瞳孔は剝き出しのまま、名前のつけようもない工程で縦線に刻まれている。首から下は極めて緻密な鱗紋で、あの紋様は彫って出せるものではない。皮膚の下から一層また一層と外へ伸びてきて、また一層また一層と脱ぎ捨てられたあとに残った痕だ。
墓に埋められているものが一層の脱ぎ捨てた殻だとすれば、残る問いは一つだけだ。本当にこの皮を着ていたあの「人」は、その後どこへ行ったのか?
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