世界観補完·2026.06.20

補遺|失踪事件を追ったこの数年、記事に書けなかったいくつかのこと

失踪事件を十数年追ってきて、どうしても記事にできなかったことがいくつかある。出した原稿は勝手に変わるか、そのまま消える。整理して、参考までに。

(本稿は匿名の社会部記者による整理である。内容は未確認、参考までに。)

社会部を十数年やってきて、失踪事件は百件以上扱った。大半には結末がある。見つかるか、本人が見つかりたくないかだ。だがごく一部に、最初から最後までどこも噛み合わないものがある。それを私は一度も記事にできていない——上から電話が来たことは一度もない。おかしくなるのは原稿のほうだ。ここに書いておく。どれだけ残るか見てみたい。

一、家族が「冷静すぎる」

蘆洲の件がいちばんはっきりしている。妻が届け出た。夫はトラックの運転手で、未明に出たきり帰らなかった。私が訪ねたのは午後で、彼女はちょうど食事を作り終えたところだった。食卓には茶碗と箸が二人分。何日にいなくなったのかと訊くと、長く考えてから、たぶん水曜だと思う、と言った。最後に会ったとき何を話したのかと訊くと、答えられなかった。目は乾いていた。

その後、私は家族に二つのことを訊く癖がついた。最後に電話で話したのはいつか、最後に洗濯をしてやったのはいつか。詰まるのは後のほうだ。中和のあの母親は6秒考えて「先月かしら」と言い、それから「あの子は自分で洗うので」と付け足した。息子は十九歳で、部屋は彼女の隣だ。

二、記事が「勝手に直る」

何度か、失踪の一報を出したことがある。翌日には同業者が全員まったく同じ言い回しで後追いし、句読点まで同じだった。さらに一日経つと、最初のいくつかの投稿が、私自身のものも含めて、そっと消えていた。管理画面には「削除済み」と出ていて、削除したのは私自身になっていた。私は削除していない。

私はバックアップを取りはじめた。一本出したらその場で3部。携帯に一つ、自分の別のメールアドレスに一つ、紙に刷って引き出しに寝かせるのを一つ。引き出しのぶんは今も残っていて、紙は黄ばんでいる。メールの2通は見つからない。受信箱にも送信済みにもない。

トナーが紙に押し込まれた版はいじりにくい。これは司法担当を20年やった先輩に教わった。彼は私の話を聞き終えると、あの未明の時間帯に出す原稿には自分の名前を載せず、デスク名義に替えていると言った。なぜかと訊くと「長く出していれば分かる」と言い、茶を飲み干して、帰っていった。

三、「帰ってきた」、けれどどこかおかしい

いちばん背筋が寒くなるのはこの型だ。いなくなった人がしばらくして帰ってくる。家族は胸をなでおろす。ところが親しい人ほど、こっそり私に、よく似た一言を言う。「あの人、帰ってきてから、なんだか……前より普通になったみたいで。」

そのうちの一人に会いに行った。彼は居間で40分、姿勢ひとつ変えずに話した。いなくなっていた数日は南部に友人を訪ねていたと言い、時刻も便もすべて辻褄が合った。あまりに滑らかで、帰って録音を聴き直してはじめて気づいた。彼の取る間の長さが、毎回ほとんど同じなのだ。

警察のほうに事件はない。人が帰ってくれば、その時点で捜索は取り下げになる。担当の警察官に訊いたら、失踪者が帰れば案件は終結、書式に「帰り方がおかしい」という欄はない、と言われ、最近寝ていないんじゃないかと訊き返された。

私はここで止まっている。DNAは一致する。健康保険証の写真も一致する。私が出せるのは、あの同じ長さの間だけだ。

四、私が使っている粗い物差し

私のやり方は笑われるくらい粗い。取材の前後に居間を一枚ずつ撮る。同じ角度で、同じ床タイルに足を置いて。蘆洲のあの家では5回撮った。4回目に、テレビ台の上の写真立てが6個から5個になっていた。奥さんはずっと5個だと言った。印画紙の縁は物差しに使える。縁に対して目鼻がどこにあるかの比を測り、数日後にもう一度同じ比で照らし合わせる。取材表の右端にも欄を一つ増やし、欄名は 未提示時の想起度 と打った。

案件         蘆洲・トラック運転手
最後の通話     回答なし
最後の洗濯     先月かしら(家族の言葉)
訪問回数       5
未提示時の想起度  低

この欄の大半のマスには「低」か「ゼロ」が入る。「高」が入った数マスは、あとで一つずつ確かめに戻った。その人たちは今も居る。

もちろん、どれにも普通の説明はつく。心的外傷の反応かもしれないし、プラットフォームのアルゴリズムが動いたのかもしれない。この商売での私の習慣は、結論を出さず、記録だけすることだ。もしあなたの身近にも「いなくなって、また帰ってきた」人がいて、最近どうも、うまく言えないが出来すぎている、と感じるなら——もう何度か見ておくといい。あなたが元から知っていたその人が、どこで言葉を切る人だったかを覚えておくといい。

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