流れない霧
ガラスの展示ケースの内側に霧の層が立つ——下へ滑らず、カメラにも写らず、なのに肉眼では見える。文物が物理的にありえないことをし始めるとき、それはたいてい壊れたのではない。
最終更新:2026.06.20
ガラスの展示ケースの内側に、霧の層が立つ。
水気の霧はガラスの上で水滴に凝り、下へ滑り落ちる。この霧はそうしない。ただそこに懸かり、均一で、静かで、ガラスの中にもう一種類の空気があるかのようだ。
スマホで撮っても写らない。カメラのrawモードで撮っても写らない。なのに肉眼では見える。この業界に長くいる者なら、一つのことを知っている——文物が「物理的にありえない」ことをし始めるとき、それはたいてい文物が壊れたのではなく、もともとそれが単なる文物ではなかった、ということだ。
観測者コメント
0 件
まだコメントがありません。最初の観測者になりましょう。
