異象注目
博物館のあの夜
閉館後の特別展示室——冷房が0.7度下がったのにパネルは変わらず、監視カメラは3秒遅れ、案内の文字が古代エジプトの記号に変わり、すべての出口が同時に消えた——扉枠の向こうは、まだ乾いていない壁だった。
最終更新:2026.06.20
閉館後の特別展示室には、本来なら冷房のうなりと、夜勤の実習生の足音しか残らないはずだった。あの夜は違った。
冷房が0.7度下がったが、隅の環境パネルが示す温度は変わらない。ガラスの展示ケースの内側に霧の層が立ち、その霧は下へ滑り落ちない。監視カメラの映像が3秒遅れる。壁の案内ライトボックスでは、漢字が一つ一つ、誰にも読めない古い記号に変わっていった。
実習生が通報しようと思ったときには、工事用アプリは接続できず、スマホは圏外、そして展示室のあらゆる出口が、彼女の目の前で同時に消えた——扉板はまだあるのに、扉枠の向こうはモルタルのまだ乾いていない壁だった。あの夜の後、彼女の人生は二度と「博物館実習生」という数文字の中には戻れなくなった。
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