裂縫注目
亀裂
空に裂けた口ではなく、「本来あるべきなのに、消えてしまった」一区画。官製の命名――亀裂。
最終更新:2026.06.20
亀裂は空に裂けた一つの口ではない。それは「本来あるべきなのに、消えてしまった」一区画――システムの世界観のなかから削除された一節だ。雪は触れた瞬間に消える、融けるのではなく、消える。機器は読み取れず、手を伸ばして触れる感触すら奪われる。
最初のこうした座標は「無データ区」と標され、80年間誰も深く問わなかった。85年前の信号が人を引き寄せて初めて、それは正式に命名された――亀裂と。
観測者の記録には、頭も尾もない一文が残されている。
亀裂は空間の破れ穴ではない、世界の最下層が書き換えられる入口だ。
この一文を書いた者は、のちに自分がどこで書いたのかすら覚えていなかった。
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